山形地方裁判所 平成10年(行ウ)6号 判決 2000年10月31日
原告
脇山淑子
外二名
原告脇山淑子を除くその余の原告ら訴訟代理人弁護士
脇山淑子
原告佐藤欣哉を除くその余の原告ら訴訟代理人弁護士
佐藤欣哉
原告外塚功を除くその余の原告ら訴訟代理人弁護士
外塚功
原告ら訴訟代理人弁護士
髙橋敬一
同
脇山拓
同
植田裕
同
髙橋健
被告
後藤源
右訴訟代理人弁護士
古澤茂堂
同
浜田敏
同
内藤和暁
主文
一 被告は、山形県に対し、金四一〇万四一九七円及びこれに対する平成一〇年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 本件訴えの中、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づく部分を却下する。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、これを四分し、その三を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 主位的請求
被告は、山形県に対し、金五三二万七七八一円及びこれに対する平成一〇年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 予備的請求
被告は、山形県に対し、金一七万四五九五円及びこれに対する平成一〇年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、山形県の住民である原告らが、大阪府で開催された第四九回全国都道府県議会議員軟式野球大会、及び、北海道で開催された北海道東北六県議会議員交流大会における軟式野球大会に、山形県議会議員が参加し同県職員がこれに随行するに当たって旅費等が支出されたことが違法であるとし、山形県に代位して、旅行命令を発するなどした山形県議会議長である被告に対し、不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めた住民訴訟(地方自治法二四二条の二第一項四号)である。
一 請求原因<省略>
二 被告の認否及び主張<省略>
三 争点
1 地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づく訴えの適法性
2 被告適格
3 本件各野球大会への参加の公務性(本件各野球大会への派遣の合理的必要性)
第三 当裁判所の判断
一 請求原因1、同2、同3(一)及び(二)、同6は、いずれも当事者間に争いがない。
二 争点1について
地方自治法二四二条の二第一項四号前段にいう「当該職員」とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味し、その反面およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められないものはこれに該当しないと解されるところ、本件全証拠に照らしても、山形県議会議長である被告が、右権限を有していることや、被告に対し山形県知事の有する予算執行に関する事務の権限が委任されたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、議会の議長である被告は、財務会計上の支出権限を有せず、本件支出について右「当該職員」に該当しないというべきであり、本件訴えのうち同条項四号前段に基づくものは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えであり、不適法というべきである。
三 争点2について
地方自治法二四二条の二第一項四号後段にいう「相手方」とは、当該財務会計上の行為又は怠る行為の直接の相手方に限られず、原則として住民が代位行使しようとしている地方公共団体の有する実体法上の請求権の相手方を意味するというべきであるから(最高三小昭和五〇年五月二七日判決集民一一五号一五頁参照)、この「相手方」に対する請求の被告適格に関しては、当該訴訟において原告により実体法上の請求権の相手方であると主張されている者であれば、被告適格を有すると考えるべきである。
被告指摘の最高裁判所の判決例は、同条項四号前段の「当該職員」に対する損害賠償の請求として提起された訴えに関するものであって、同条項四号後段に基づく本件主位的請求とは事案を異にする。
したがって、原告らから損害賠償請求権ないしは不当利得返還請求権の相手方として主張されている被告は、右「相手方」にあたるというべきであり、本件訴えは適法である。
四 争点3について
1 事実経過
証拠(甲一、二の1、2、三の1ないし4、四の1ないし7、一四、乙一ないし三、七、八、九の1、2、一〇、一二の1、2、一三、一七、一八、証人松澤洋一及び後記括弧内記載の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 全国野球大会
(1) 全国野球大会の目的・性格
全国野球大会は、「国体に協賛し、あわせて議員相互間の親睦とスポーツ精神の高揚を諮り、地方自治の発展に寄与する」ことを目的とし、各都道府県議会議員が、所属議会毎に野球チームを構成して、トーナメント方式により試合を行い優勝チームを決定する軟式野球大会であり、昭和二四年国体開催地である東京都議会が主催する形で始まり、その後、昭和五二年の第二九回大会から全国都道府県議会議長会と開催都道府県議会との共催となった。
山形県議会チームは、第一回大会から参加し、第二五回大会から第四九回大会まで連続して参加している。
第四九回大会の目的は、「なみはや国体に協賛し、あわせて議員相互の親睦とスポーツ精神の高揚を図り、地方自治の発展に寄与する」こととされており、第五二回なみはや国体の開催に先立ち、右国体の開催地である大阪府内において、すべての都道府県議会の参加を得て開催された。
全国野球大会の参加者日程、行事計画の上では、議員が他の都道府県議会の議員と交流し、意見を交換したり情報を収集したりすることを目的とした行事は最初から一切計画されておらず、またそのような行事は実際にも全く催されなかった。また、議員及び職員が、大会期間中、大会会場となった施設の説明を受けたり、周辺の体育施設を視察する機会は一切なかった。
(2) 参加に至る経緯
全国野球大会は、平成九年一月二一日、全国都道府県議会議長会の役員会及び臨時総会において、平成九年度の全国都道府県議会議長会の行事計画の一つとして、同年八月二三日から同月二五日までの日程で、大阪府において開催されることが決定された。
全国野球大会実行委員会会長(大阪府議会議長)は、同年五月一四日、山形県議会議長である被告宛に全国野球大会の開催通知を開催要綱とともに送付した(乙三)。
被告は、開催通知を受け、山形県議会の各会派代表に大会参加の意向を確認したところ、各会派から特に異論は出ず、参加が決定された。山形県議会チームの全国野球大会への派遣議員数は二九名であったが、これは参加要請を受けた被告が各会派と調整し、議会の代表として決定したものであった。また、随行職員の参加についても、県議会事務局長が被告の命を受け調整し決定した。被告は、全国野球大会に山形県議会チームの団長として参加することとなった。
被告は、同年八月一二日参加議員の旅行命令を発し、同月一三日議会事務局長の旅行命令を発した。知事部局職員一名については当該職員の所属長が、その他の職員については議会事務局総務課長が旅行命令を発した。
(3) 日程
山形県議会議員(以下「議員」という。)二名及び山形県職員(以下「職員」という。)一名は、同年八月二一日大阪市に出張し、翌二二日午後一時から開催された主将会議に出席した。
議員二七名及び職員一一名は、同月二二日、大阪市に出張した。議員のうち二七名は、午後六時から午後八時ころまで大阪市で開催された「関西県人会及び在阪企業各支社との懇談会」に出席した。この懇談会は、関西山形県人会の人及び在阪山形県企業の役員約五〇人と懇談し、県政発展についての意見交換等を行う等するもので、山形県議会が独自に開催したものであった。このほか、森林・林業・林産業活性化促進地方議員連盟の全国連絡会議の総会に出席した議員もいた。職員は、会場設営、資料準備、受付、来客の案内などの用務にあたるとともに、右懇談会に出席した。
議員は、同月二三日、開会式に出席した。開会式は、大阪府内の国体会場である舞洲アリーナにおいて、全国都道府県議会チームの入場や各種あいさつ、優勝旗返還等が国体の開会式にならう形で実施された。その後堺市内の新日本製鉄株式会社の野球場に移動して一回戦に出場した。
議員は、同月二四日、前日と同じ野球場で二回戦及び準決勝戦にそれぞれ出場し、同月二五日、国体会場である大阪府営住之江公園野球場において決勝戦に出場した。二九名の議員のうち、選手として試合に出場したのは、十数名にとどまった。その後舞洲アリーナにて閉会式に出席した。職員もこれに随行した。議員及び職員の全員は、同日中に帰県した。
(二) 北海道東北大会について
(1) 交流大会及び北海道東北大会の目的及び性格
北海道・東北六県議会議長会は、平成一〇年一月二二日、これまで行われてきた北海道・東北六県議会議員軟式野球大会の今後の在り方について協議し、平成一〇年度以降は、「当面する諸問題に関する意見交換及び軟式野球大会を通じて各道県議会議員の交流と連携を深め、活力に満ちた地域づくりに寄与すること」を目的とすることとし、名称を北海道・東北六県議会議員交流大会に改めることとし、主催は、北海道・東北六県議会議長会及び開催道県議会とし、新たに大会運営経費として、各道県議会が一道県議会あたり三〇万円ずつ分担することとした。
(2) 参加に至る経緯
北海道・東北六県議会議長会は、同年五月二五日、交流大会を、北海道において同年八月一七日から同月一八日までの二日間の日程で開催することを決定した。
北海道東北大会実行委員会会長(北海道議会議長)は、同年六月二六日、山形県議会議長宛に交流大会の開催通知を開催要領とともに送付した。この通知によると、交流大会の日程は、同年八月一七日午後一時三〇分から札幌市内で意見交換会が開催され、午後一時四五分から基調講演、午後二時三〇分から四つの分科会で、農業問題、経済問題、環境問題及び保健福祉問題についての意見交換が行われること、午後五時から北海道東北野球大会の代表者会議が行われること、同月一八日午前八時三〇分から江別市において同大会の開会式が開催され、引き続き午前九時三〇分から同市内の二会場に分かれ試合が行われるという内容であった(乙八)。
被告は、開催通知を受け、会派協議会に諮り了解を得たうえで、これまでの大会と同様に参加することを決定した。また、随行職員の参加については、議長の命を受け事務局長が調整し決定した。
被告は、同年八月六日、全国野球大会と同様に、議員の旅行命令を発した。また、職員のうち、一名については議長が、その他四名については事務局長が同月五日にそれぞれ旅行命令を発した。被告も北海道東北大会に参加することとなり、実際に参加した。
(3) 日程
議員四名は同年八月一六日、議員二一名及び職員五名は翌一七日、それぞれ札幌市に出張した。
議員二五名は、右一七日、午後一時三〇分から札幌市で開催された意見交換会に出席した。この意見交換会は、午後一時三〇分から開会式、午後一時四〇分から北海道経済連合会会長戸田一夫氏による「産業クラスター構想など北海道の二一世紀構想について」と題する基調講演があった。午後二時三〇分からは分科会が行われ、第一分科会「農業問題―活力ある農業・農村づくり」、第二分科会「経済問題―産業の高度化と産業基盤づくり」、第三分科会「環境問題―環境を重視した社会づくり」、第四分科会「保健福祉問題―福祉のまちづくり・地域づくり」に、合計二五名の議員が出席した。職員五名は、開会式、基調講演及び分科会に出席し、基調講演及び分科会では各道県議会議員の発言を記録する事務を行った。意見交換会の内容は後に報告書にまとめられ、全議員に対し配布された(乙一八)。午後五時から、北海道東北野球大会の代表者会議が行われ、議員二名が出席した。午後六時から親睦会が開催され、午後八時に終了した。
議員二六名は、翌一八日午前八時三〇分から、江別市内の会場で行われた北海道東北野球大会に出席し、第一試合及び第二試合に出場し、職員五名は右試合に随行した。議員及び職員全員は同日帰県した。
2 山形県特別職の職員の給与等の支給に関する条例(昭和三一年山形県条例第五二号)二条二項は、議会の議員が職務のため旅行するときは、旅費等の費用弁償額を支給する旨規定し(乙四)、県職員等の旅費に関する条例(昭和二六年一〇月一〇日山形県条例第四八号)三条一項は、職員が出張した場合には、当該職員に対し旅費を支給する旨規定し(乙六)、本件各野球大会への議員の参加費用及び職員の随行費用は、右規定に基づいて支給されたものである。
ところで、普通地方公共団体の議会は、当該普通地方公共団体の議決機関として、その権能を適切に果たすために必要な限度で広汎な権能を有するから、普通地方公共団体の施策の適切な決定、議員の知識・経験の向上等、議員を国内外の行事等に派遣させることに合理的な必要性を有すると認められるときは、右行事等への参加も費用支出の根拠となる議員の職務のための旅行にあたるものと解される。
そして、右の派遣の合理的必要性の判断に際しては、議会の裁量権が尊重されなければならないことは当然であるが、もとより右の裁量権にも自ずから限界があるのであって、派遣の目的、態様、効果、大会参加と目的達成との関連性等に照らして派遣に要する費用を公費でまかなうことが著しく妥当性を欠くと認められるときは、裁量権の逸脱又は濫用があるものとして、派遣は違法となり、その場合に職員を随行させることも違法となると解するのが相当である。
3 全国野球大会について
(一) 前記1(一)(1)認定のとおり、全国野球大会は、各都道府県議会議員が、所属議会毎に野球チームを構成して、トーナメント方式により試合を行い優勝チームを決定する軟式野球大会であり、要するに参加議員が野球というスポーツを行うものというべきであるから、全国野球大会への派遣の基本的性格も、それ自体としては参加した各地の議会議員らの相互の親睦とレクリエーションの域を出るものではないと評価せざるを得ず、派遣費用を公費でまかなわせてまで右大会に議員を派遣させることについては、原則として合理的な必要性があるとはいえない。
(二) しかし、被告は、以下の理由から、議員が全国野球大会に参加することは公務であると主張するので、検討する。
(1) 被告は、全国野球大会が都道府県議会の議員が一堂に会する唯一の交流の機会であると主張し、証人松澤洋一も、開会式の入場行進の前、試合の前後、昼休み、宿泊場所での朝食等において他の地方議員と意見交換する機会があり、これが県政のために役立てられたと証言する。
しかし、右の試合方法では、野球の試合中に他の地方議員と会話をすることなど全く期待できないのであるから、野球の試合を行うことそれ自体に、地方議会議員としての交流を期待することは当然できないというべきであるし、試合の前後の時間についても、前記1(一)(3)認定の全国野球大会の日程によれば、他の地方議員と交流し、意見を交換したり情報を収集したりすることを目的とした行事は最初から一切計画されておらず、またそのような行事は実際にも全く催されなかったのであるから、全国野球大会への参加は、野球をすることに尽きるものであり、他の議会の議員との交流は元々期待されていなかったというべきである。
また、右証人が証言するように、開会式の入場行進の前、試合の前後、昼休み、宿泊場所での朝食等において他の議会議員と会話をする機会があったとしても、そのような機会を設けるためにわざわざ野球大会を開催する合理的必要性があるとまでは到底いえない。
(2) 被告は、野球による交流のみならず、全国野球大会においては山形県議会独自に関西県人会及び在阪企業各社との懇談会を併せて実施することにより、貴重な意見交換ができると主張し、右証人もその旨証言する。
しかし、前記1(一)(3)認定のとおり、右懇談会は、全国野球大会に付随して行われた行事ではなく、山形県議会が独自に主催・企画したものに過ぎないものであること、全国野球大会は開会式前日の主将会議から閉会式まで全四日の日程であるのに対し、右懇談会は二時間弱のものであることからすれば、本件の派遣との関係でいうと、全国野球大会への参加が主たる目的であるのに対し、右懇談会への出席は従たる目的に過ぎないといわざるを得ない。
(3) 被告は、全国野球大会が全国議長会が主催する行事であること、山形県議会が大会の意義を認めて参加の意思を決定していること、過去の長年の参加実績があること及び従来からほとんどの団体において全国野球大会を公務として位置づけて参加していると主張するが、いずれも全国野球大会への参加の公務性判断に与える影響は大きいとはいえない。
(4) 被告は、全国野球大会においては全国都道府県議会の参加により国体を盛り上げる目的があり、現に第四四回全国野球大会では新聞に写真入りで報じられていると主張するが、国体が広く国民に認知された一大行事であるのに対し、全国野球大会の認知度は必ずしも高いとはいえず、全国の都道府県議会議員が一堂に会して野球大会を開催することと右目的との間の関連性は極めて希薄であるといわざるを得ない。
(5) 被告は、全国野球大会に参加することにより、国体規模の先進的な施設や競技運営方法を身をもって経験し、その結果山形県のスポーツあるいは文化の類似施設の整備や今後の在り方等、県の重要事業施策の方策に生かす意義を有すると主張する。
確かに、地方議会議員が国体規模の先進的な施設や競技運営方法を自ら選手として実体験することが、議員として将来のスポーツ振興施策を検討する上での見識の滋養に全く無関係であると断ずることはできない。
しかし、前記1(一)(1)及び(3)認定によれば、全国野球大会において実際に選手として体験した者は、右大会参加者の一部に止まる上、実際に選手体験をした議員についても、議員が大会期間中に大会会場となった施設の説明を受ける機会は一切なかったのであるから、選手体験にスポーツ振興施策を検討するのに必要な見識の滋養という効果を期待することも、極めて困難であるといわざるを得ない。
(三) 結局、被告が主張する事実は、いずれも全国野球大会への派遣の合理的必要性を裏付けることはできず、かえって、全国野球大会の主催者、目的、参加者の日程、行事計画、参加の態様等を総合すると、全国野球大会への参加は、参加議員が自ら野球の試合をし又はその応援をすることが目的であって、参加した各地の議会議員らの相互の親睦とレクリエーションの域を出るものではないと評価せざるを得ないから、その派遣費用を公費でまかなわせてまで右大会に議員を派遣させることは、著しく妥当性を欠くといわざるを得ない。したがって、山形県議会が行った右大会への派遣決定は、裁量権を逸脱した違法があり、山形県議会の右決定に従って発せられた被告の議員に対する旅行命令も、違法である。
そうすると、前記のとおり議員を全国野球大会に派遣すること自体が違法である以上、これに職員を随行させることも、著しく妥当性を欠き、裁量権を逸脱した違法があるから、被告の職員に対する旅行命令も、違法である。
4 北海道東北野球大会について
(一) 北海道東北野球大会についても、各都道府県議会議員が、所属議会毎に野球チームを構成して試合を行う軟式野球大会であり、要するに参加議員が野球というスポーツを行うものというべきであるから、北海道東北野球大会への派遣の基本的性格も、それ自体としては参加した各地の議会議員らの相互の親睦とレクリエーションの域を出るものではないと評価せざるを得ず、派遣費用を公費でまかなわせてまで右大会に議員を派遣させることに合理的な必要性があるとはいえず、公務性は否定されるべきである。
被告は、(1)北海道東北野球大会は、地方議員が一堂に会する唯一の交流の機会であること、(2)北海道・東北六県議長会という公的機関が主催する行事であること、(3)山形県議会として大会の意義を認めて参加の意思を決定していること、(4)過去の長年の参加実績があること、(5)従来からほとんどの団体において公務として位置づけて参加していること、(6)野球による交流のみならず、意見交換会を併せて実施することにより、貴重な意見交換ができることを主張して、北海道東北野球大会が公務性を有すると主張するが、右(1)ないし(5)は、前記3(二)(1)、(3)記載の理由により、いずれも公務性を基礎付けることはできないし(北海道東北野球大会においても、他の地方議員との交流、意見交換、情報収集を目的とした行事を行ったとはみとめられない。)、右(6)についても、同じ機会に行われた意見交換会の存在をもって、元来レクリエーションの性格を有する野球大会を公務とみることはできないというべきであり、被告の主張はいずれも採用できない。
(二) しかし、前記1(二)(1)及び(3)認定のとおり、北海道東北野球大会は、意見交換会とともに一泊二日の交流大会の一環として開催されたものであるところ、交流大会のうち意見交換会が都道府県議会議員の公務にあたることについては、前記認定の意見交換会でおこなわれた内容から明らかである。
このように派遣先の行事の一部のものについて公務性が肯定され、一部においてこれが否定される場合、公務性が否定される行事が全日程の大半を占め、当該派遣全体において公務性を否定すべき特段の事情がない限り、当該派遣自体の適法性には影響がなく、派遣に必要な支出のうち、公務性が肯定される行事への参加に必要な限度を超える支出、換言すると一部の公務性が否定される行事への参加がなければ免れたであろう支出のみが、違法の評価を受けるというべきである。
これを本件についてみるに、交流大会への派遣のための支出のうち、北海道東北野球大会への参加がなければ免れたであろう支出のみが違法な支出となる。証拠(乙二六)及び前記1(二)(3)認定の交流大会の日程からすると、山形県の議会議員及び職員が意見交換会終了後に当日中に帰宅することは不可能若しくは著しく困難であるから、本件支出のうち参加議員及び派遣職員に支給された旅費、宿泊費等については、意見交換会への参加に必要な支出、すなわち適法な支出である。平成一〇年度北海道・東北六県議会議長負担金三〇万円についても、前記1(二)(1)認定によれば、交流大会全体の運営経費として県費から支出されたものであり、したがってその半額の一五万円が北海道東北野球大会のための支出であるということはできないし、山形県議会議員が北海道東北野球大会にのみ欠席した場合に右額の負担を免れたということもできない。また、前記1(二)(3)認定によれば、職員は基調講演及び分科会の発言を記録する事務を行っていたものであるから、議員が北海道東北野球大会に参加しなかったとしても、職員の随行が直ちに不要となるとはいえない。
以上から、交流大会参加のための支出については、違法の評価を受ける支出を認めることはできない。
五 被告の責任について
前記四1(一)(2)認定によると、被告は、山形県議会議長として議員及び議会事務局長に対し国内外への旅行命令を発する立場にあるし、また議員の派遣に随行する職員の旅行命令を議会事務局等に要請する立場にあるのだから、議員及び議会事務局長に対し旅行命令を発する際や職員への旅行命令を要請する際には、議員や職員を公務とはいえないものに派遣させないよう防止する注意義務があるというべきである(被告が主張するように、議長が行う議員への旅行命令が議会の判断に基づいて発せられるものであったとしても、議会の裁量に基づく判断であっても、右判断に影響しない。)。
しかるに、前記四1(一)(2)認定によると、被告は、山形県議会の各会派代表に全国野球大会参加の意向を確認し、山形県議会チームの全国野球大会への派遣議員を決定し、随行職員についても、被告の命により事務局長に調整・決定させ、参加議員及び議会事務局長の旅行命令を自ら発し又は議会事務局等と相通じて随行職員の旅行命令を発せさせたということができるから、被告には、右注意義務に違反して右各行為を行った過失がある。
また、以上の事実関係からすると、全国野球大会派遣までの一連の流れにおいて被告が行った右各行為は、参加議員への費用弁償や随行職員への旅費支出との間において、相当因果関係を有する。
以上から、山形県は、被告に対し、全国野球大会への県費支出額である四一〇万四一九七円について、不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。
六 よって、主位的請求は、山形県に代位して、被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号後段により、不法行為に基づく損害賠償金四一〇万四一九七円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成一〇年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を請求する限度において理由があるから、これを認容する。なお、認容した主位的請求を超える部分に関する予備的請求については(被告が北海道東北野球大会への参加費用として受領した七万〇五九九円の請求部分)、前記四4(二)記載の理由から、いずれも理由がないのでこれを棄却する。
(裁判長裁判官・手島徹、裁判官・石橋俊一、裁判官・伊東満彦)